冷たい雨の降る夜だから


 仕事を終えて家に帰る途中、立て続けにスマホがラインメッセージの到着を告げる。ラインを開くと、にぎやかに会話を交わしているのは会社の同期のグループライン。

 『金曜日、飲みに行こう』と言い出していたのは、菊池君だった。もともと大阪支社に配属になっていたのもあって、美味しい店はどこだとか、そんな会話が繰り広げられている。私は同期のグループラインに登録はしているものの、普段はほとんど会話に参加しない。同期の飲み会の連絡だとかそういうのを受け取るために登録しているだけと言ってもいい位。

 家に帰ってご飯を食べて、更にお風呂にまで入ってからスマホを見ると、まだまだ会話が続いていて、半ば感心しながらグループチャットを開く。ざっと流し読みした限り、行ける人だけでご飯を食べに行くらしい。みんな、元気だなぁ……と他人事のように考えながらスマホを机に置くと、目に着いたのは高校の卒業アルバムだった。

 ぱらりとページをめくると、文化祭の写真が並んでいた。その中の一枚に、圭ちゃんとクラスの女の子と3人でおそろいのエプロンをして楽しそうに笑っている私が居て、思わず手を止めていた。

 圭ちゃんと一緒に写っているからこの写真は3年生の時のはずだけど、私、こんな所に写っていたんだ。卒業アルバムは先生を探すために隅から隅まで見たはずだったのに、自分に気付いていなかったなんて。今までどれだけスーツで眼鏡の男の人だけ探してたんだろうなんて思ったら笑ってしまった。

 3年生の文化祭、この頃の私は……もう物理実験準備室に、行っていない。先生と会っていない。

 この頃は、こんなに笑ってるのに。どうして今は、こんなにも駄目なんだろう。笑う事すら満足にできなくなってしまった自分が嫌になる。

 ピコンッと軽やかな音と共に新着メッセージを伝えるバイブがなって、見るとポップアップが画面に出ていた。

『金曜日来いよ。野村や池内も来るって言ってるし』

 菊池君から届いたものすごく一方的なメッセージに眩暈がする気がした。
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