冷たい雨の降る夜だから


「なにそれ、じゃあ今日も会うの?」

「わかんない。連絡寄越せって言われたけど、会う……のかな?」

 昨夜のことをざっくりと話したけれど、夏帆はちょっと流れをつかめていない表情をした。昨夜先生が言ったのは、仕事終わったら連絡寄越せってだけで、連絡したらどうするかなんて話はしていない。

「えー、でもその流れは…連絡したら会うんじゃないの?」

「そう…かなぁ?」

「私なら2日連続デートを期待ちゃう。てか、結婚したかは聞いたの?」

「……ううん、聞けなかった」

「えぇ、そこ絶対聞かなきゃダメじゃん。じゃあ好かれてるかな?って感触は?」

「……わかんない」

 夏帆はますます微妙そうに首をかしげる。

「判んないって……。ご飯食べて何話したのよ」

 何と言われても、何って言うほどたいした話はしていない……と思う。元々、私と先生の会話は当たり障りのない事がほとんどで、色っぽい会話とは程遠いものだったし。先生は昔からちょっと期待しちゃうけど、イマイチ掴めない人だった。

「だって結婚した?とかどんな顔で聞いたら良いのかわかんないし……。全然、そういう雰囲気の会話にもならないし」

 煮え切らない私の答えを、夏帆が「ねぇ」と遮った。

「翠はさ、そもそもその人の事、好きなの?」

 先生の事を好きかどうか。その問いは高校生の頃に何度も何度も自問自答した。その答えは今も、変わっていない。

「うん、好き」

 私の答えに夏帆は納得したように微笑んだ。

「昔は男の人、平気だったの?」

「うん。男の人ダメになったの高1の終わり頃からかな。その前は、一応付き合っていた人が居たこともあったんだけど……」

 本当に短い間だったけれど、確かに私は道又先輩と付き合っていた。幸せとかそう言うのとは全く無縁だったけれど。

「そっか。その人と何かあった? 翠の男嫌いって、女子校育ちで男慣れしてないとかそういうのとかと全く別物っぽいから気になってたんだけど」

「……うん、まぁ、いろいろと」

 先輩との交際について夏帆に話す事は出来なくて、言葉を濁してしまった私に夏帆は複雑そうな表情をしたもののそれ以上問い詰めては来なかった。
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