先生、解けない問題があるのですが。




『S高に行くには…ちょっと厳しいかもねぇ…』


学校の三者面談で、担任の先生にそう告げられた。


S高は、県内でも有数の進学校で、なっちゃんもそこの卒業生だった。
だから、ずっとS高に憧れて、目指してたんだけど…



そんなことを言われ、
今までの努力が全部、水の泡になった気がした。



そして、その日の面談帰り。


『お母さん、ショックよ。娘がS高行けるかもって、鼻高かったのに…』


そう、お母さんが眉間にしわを寄せながら言われた言葉は、私の心にグサグサと刺さる。





………私だって、頑張ってるんだよ。





『あれだけ模試の点数よかったのに。……やっぱり諒也君ってすごいのねぇ』



………やめて、そんなこと、言わないで。


その言葉は私が一番嫌な言葉だよ……




『だって、模試の判定、S高安全圏だってねぇ。もっと諒也君見習っ『……っ長瀬じゃない!!!!!』





ついに私は爆発してしまった。



『お母さん!私は長瀬じゃない!!!お母さんは押し付けがましいんだよ!!!!』



ものすごい勢いで怒鳴り散らした後、私は走り出した。





自分の家ではなく、長瀬の家に。




なっちゃんに。なっちゃんに話を聞いてもらいたかった。



でも、なっちゃんはいなくて、変わりに、その弟がいた。



そしてそいつは、いつものように、私に向かって無神経に言ってくる。




『なに?息切らして。豚みてぇによ』


『…………』


『あ、今日面談だったんだっけ?はん!ズタボロ言われたんだろ!(笑)』


『…………』



『……?なんだよ。いつもみてぇに言い返してこいよ』


『……………うぅっ』


『えっ?!はっ?!』



長瀬の顔を見た瞬間、悔しさとか、全部溢れだして、いつの間にか私は泣いていた。


それを見てアイツはあたふたしてた……
んだろーけど、そんなこたぁ覚えてない。





あの頃は、毎日勉強、塾、勉強…で、労力がきていて、それなのに、お母さんにあんな言葉言われて余計に、精神状態が崩れていたんだと思う。




『んで?何があったんだよ。俺様が特別にきいてやるから………とりあえずそれ拭け。』


と、ボロボロと泣き止まない私にハンカチを渡してきた。


『ぅぇっ、ぐすっ…うぅ……、あ、あどでっ、(あのね)……』





そして、なっちゃんに相談するつもりが、いつの間にか長瀬の野郎に相談する形になっていた。


でも、あの時のアイツは柄にもなく、私の話をずっと聞いてくれた。







『………で、おばさんに怒鳴って、ウチに逃げ込んできたわけ?』


『に、逃げ込んでないしっ!……』



『ふぅん。それでお前は、何のために勉強してんの?』



『……そんなのっ、わからない。もう、私、いままで何で頑張ってきたのかも、これからどう頑張っていいかもわからないっ…!うっ…うぅ』


『あーあー!わーったから!もう泣くな。』


私は鼻をチーンとかむ。
ごみ箱の中には、今日私が消費したティッシュでいっぱいだった。



『…つまりお前は、俺に勝ちてぇんだよな?』


『………うん。』



そして、
奴はニヤリと笑い、提案してくる。



『……じゃあさ、賭けしねぇ?』



『へ?』








ーーーこれが、賭けを始めたきっかけ。



負けず嫌いの私は、流れに流されたのもあって、この賭けにあっさり乗ってしまった。


まぁ、なによりこの時は、受験のプレッシャーもあって、その方が燃えるからちょうどよかったんだよね。


でも結局私は、S高はやっぱりギリギリだったから諦めて、S高よりもうワンランク下の、地元にあるN高を受験した。



で、中学までかと思ったこの勝負。
なんと、高校まで延長戦となった。


なぜなら、アイツと、高校が一緒になってしまったから。



長瀬ならS高なんて余裕だったのに、
アイツがこの、N高を志望した理由がこちら。




‘‘頭いーとこの高校行ったって、多分俺一番だし。どーせ一番なら、あえて低脳な奴らがいるとこ入った方が、楽して評定取りやすいし、目立つから楽しいだろ。
森本(友達)もN高行くって言うしな’’






ふざけるな。
ムカつく。






そして今現在、私はこの長瀬に1勝4敗中。。。






『おい』





っていっても、この1勝は
長瀬が熱で、テスト全然受けれなかったのもあるんだけど……





『おい、藤咲』





いつか、私が勝って、思う存分使ってやる為にやるんだからねーー!!!






「おい、聞いてんのかよ負け犬。泡飛んでんだけど。」




「ほえ?」



スポンジを持ちながら、ガッツポーズしている私の横に、
いつの間にか、長瀬が呆れた顔で立っていた。



「……………っ!な、何よ」






「だから、次。洗濯たたんどけっつってんの」


「はぁっ?」



お腹ボリボリかきながら上から目線で命令してくる。


洗濯物もだと?!!



なんなの、こいつ

……………………鬼!?



今すぐにでも、この完璧な顔面を殴りたい。例え髪の毛がボッサボサでも、絵になってしまうこの憎たらしいぐらい整った顔面を……!




「んじゃ、俺寝るから。起こすんじゃねぇぞ。
あ、あとお前、人ん家の台所で暴れんなよ?動物が暴れると下の鈴木さん家に迷惑だろーが」



そういい捨て、自分の部屋に去っていく。




暴れんなってなによ?!


人を動物扱いしやがって……

つか、この下の階のお宅笹本さんだしね?!




次、私が勝ったら絶っっっ対こきつかってやる!!!!




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