好き、禁止。
もう春だとはいえ、夜は少し肌寒い。
カーディガンだけじゃ足りなかったかと後悔した。
カラカラと自転車の音が、静かな夜道に鳴り響く。私が乗ってきた自転車を、神月くんが押しながら歩いてくれている。
神月くんは大学帰りにそのまま出勤していたようで、駅からコンビニまで徒歩なのだそうだ。
結局、家まで送ってもらうことになった。
決め手はやはりあの、神月くんの笑顔ということになるだろう。
どうしてこんなことになったのか。隣に神月くんが歩いているこの状況は、そわそわして落ち着かない。
コンビニの横にある人気のない公園を通り抜けると住宅街がある。そこを300メートル程歩くと、私が住んでいるマンションはもうすぐそこだ。
「バイト先から近いんですね、家」
「そのほうが楽だから。最近だけどね、引っ越したのは」
「一人暮らし、ですか?」
「そうだよ」
実家にいると親から就職についてどうしてもあれこれ言われてしまう。それが嫌で、コンビニでのバイトがない日には一日中派遣の仕事をしたりして、なんとか一人暮らしが出来るだけのお金を稼いでいる。
何を話したらいいのかわからなくて、ふと空を見上げた。今日は天気が良かったからか星が綺麗に出ている。
「佐野さんって」
「は、はい!」
あ、予想外に大きい声が出た。しかも何故か敬語だし。
自分で自分を恥ずかしく思っていると、神月くんが噴き出した。
「あはは、どうして佐野さんが緊張してるんですか」
「し、してないよ緊張なんて」
「そうですか?……俺はしてますけど」
そうなのか、と思った。
全然そんな風に見えないからわからない。
同時に、そっちこそどうして緊張してるんですかと尋ねたくなる。