夢見るキスと、恋するペダル
1 夏の終わり
茜色の夕陽があたる高校の駐輪場。
錆びた柵の前にとめている赤い自転車。
後ろのタイヤが無残にもぺたんこになっている。

「……え。これ、パンク…?」

13歳の誕生日に買ってもらったその自転車は、乗り始めてから、もうすぐ5年になる。
高校入学してからも2年半ほどの通学で擦り切れるほど使っているし、雨に打たれて錆びていたり、傷もたくさんついている。
赤色が子供っぽい気もするし、もう買い換えてもいいと思っていた。

でも、不意打ちのパンクはヤダな…。
自転車屋さん行かなきゃ。


溜息をつきながら駐輪場を出た。
陸上部が走りこんでいるグラウンドの脇道を、私は自転車を押し、夕陽に向かいながらとぼとぼと歩く。

まだ、夏の水分を含んだ蒸し暑さが残る秋のはじめ。
白いシャツに、紺のプリーツスカート、紺のハイソックスという、面白みのない、良く言えばシンプルな制服。
なんとか可愛く着こなしたくて短くしたスカートが歩くたび揺れる。
来月からは冬服に変わる。

高校生最後の夏服は、あと数日で終わりを迎える。
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