夢見るキスと、恋するペダル
2 秘密のはじまり
次の日の放課後。
残暑うだるような気候の中、お兄さんの手によって復活したはずのタイヤは、またぺちゃんこになっていた。

刺さっている押しピンを探したが、今日は見当たらない。

「うそ……またパンク……?」

久しぶりに続けて嫌がらせされると、堪える……。
きっと彼女の仕業たちだろうけど――証拠もない。
心を凍らせて、あった出来事を飲み下して忘れるよう努める。


「……1400円、持ってるな」

私は、落ち込みそうな気持ちを立て直そうと、意識して背筋を伸ばし、颯爽と自転車屋さんに向かった。



今日の自転車屋さんはお店のすぐ外にいた。
私の姿を見つけたお兄さんは、深めにかぶっていたキャップを少し上げる。


「あ、昨日の代金?」

「はい……それと、またパンクしちゃって…」

「え?また?ちょっと見せて」


大きな手が、私からやすやすと自転車を引き受け、後輪のそばに膝をついた。


「……ビッチなの?」

「へっ?」

自転車屋さんは、サドルの下を静かに指さした。
高校の通学許可証シールの上が貼ってある場所。……の上に、極太油性マジックで「クソビッチ」と書かれていた。

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