冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 (見た目は完璧だものね)

 私は隣に立つレイをそっと伺い見た。

 女性としては平均的な背丈の私より頭一つ以上高い背丈。それに見合う長い手足と均整のとれた躰つきで、いつも夜会服を見事に着こなしている。
 艶やかな銀の髪に青い瞳は、冷ややかな美しさを感じる。

 二十二歳という若年ながら宰相補佐の地位に就き、同年代の王太子の信用も高い。
 日頃は文官としての仕事に従事しているけれど、武術の腕も相当なもので、将軍からも部下に欲しいと求められたとか……そんな噂もあるらしい。

 眉目秀麗、文武両道。レイは絵に描いたような理想の男性といえるだろう。


 対して私、ローナ・ルウェリンは、これといった名産品のない小領地を、細々と運営するする平凡な男爵家の娘。
 一応貴族だけれど、名門公爵家のレイとは身分に大きすぎる隔たりがある。

 私自身もレイのような目立った容姿を持つわけでもないごく普通の、大勢に混じれば見つけるのが難しいような平凡な娘だ。

 それなのに婚約者になったのはレイの父親のアークライト公爵と私の両親が親しい友人で、幼馴染の関係だったことがきっかけ。

 かといって親同士が決めた政略結婚という訳じゃない。

 当然だ。私の家から見れば良い事だらけの結婚だけれど、レイの家としてはルウェリン男爵家との縁など有り難みがないのだから。
 むしろ悪縁と言えるだろう。王族の姫や公爵家の令嬢だって娶れる立場のレイが、吹けば飛ぶような弱小男爵家の娘と婚約したのだから。
 
 幼い頃からの付き合いのおかげか、レイの両親をはじめとしたアークライト公爵家の人達には婚約を反対されなかったし、屋敷を訪れれば、立場が変わった今でも歓迎して貰えている。


 けれど社交界では、レイと私の婚約は全く歓迎されていなかった。


 レイに憧れている令嬢達は私を身の程知らずな女と蔑んでいて、存在自体を無視して来る。

 あからさまな敵意を向けて来る令嬢もいた。その冷ややかできつい視線に初めは恐れを感じたものだったけれど、何回も繰り返されるうちに慣れてしまった。

 不満に思われても、私にはどうしようもないと開き直った。

 この婚約に物申したいのならレイ本人にどうぞ。だって婚約したいって言い出したのはレイの方からなのだからと。

 レイは最高の結婚相手だけれど、婚約は私が望んだ訳ではない。

 レイ自身が強く望みなんの利益ももたらさない身分低い私との婚約を決めたのだ。
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