冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
婚約者の裏切り
『しばらく王宮に篭りきりになる。ここにも来れなくなるが連絡はする』

 あの事件の次の日、私の様子を見にルウェリン邸を訪れたレイは、そう言い残すとお茶を飲む事もなく慌ただしく帰ってしまった。

 長く続いた、レイのルウェリン邸参りは絶えたけれど、時々手紙が送られて来る。

 詳しい事は書いていないけれど、普段の仕事に加え王太子殿下直々の任務中らしい。

 加えて先日の事件の犯人探しも有るから、レイは目の回るような忙しさの中にいるようだ。

 私にも手伝える事が有れば良いのだけど、残念ながら現実的に私で役に立てる事は無い。

 手紙でレイは私の身辺に何か変わった事は問無いかなど、かなり気にしている様子だった。

 出来れは外出も控えて欲しいような内容が書かれていた。
 あんな事が有った後だからか、随分と神経質になっているようだ。

 普通に考えれば、治安の良い王都の貴族街を出歩く事に危険なんて無いだろう。

 だけどレイの気がかりを少しでも減らしたいと思ったし、私自身も事件の後遺症か一人で出歩くと不安に襲われる事が時々有った為、なるべく外出を控えていた。

 引き籠っていてもとくに不便は無かった。

 私が必ず出なくてはいけない夜会はレイの付き合いのもで、そのレイからの誘いが無いのだから、外出する必要が無かったのだ。

 空いた時間はプラムで買った記事を使い、レイへ贈る羽織物作りに精を出した。

 生地には元々金糸、銀糸で装飾されていたから、それに合わせる形てアークライト家の家紋を入れてみた。
 予想以上の出来栄えに大満足した。
 次にレイに会った時に渡すのが楽しみだ。

 そんな風に、社交場に顔を出さずに過ごしていたある日、私は意外な人物の訪問を受けた。
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