冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
婚約者の真実
 レイの裏切りを目の当たりにして、最悪の夜だと思っていたけれど、更に酷い事が起きるなんて。

 私は自分の置かれた状況の酷さに眩暈を覚え、その場に崩れ落ちる。

 朽ちた建物の床は砂埃にまみれ、深緑のドレスの裾が白く汚れていく。

 今頃はルウェリン邸に着いて、自分の部屋でひたすら泣いていたはずなのに。

 私はなぜこんな見知らぬ場所に閉じ込められているのだろう。




 あの時、私に声をかけた女性は誰だったのだろう。

 聞き覚えのある女性の声なのに、誰のものなのか思い出せない。

 だけど私をここに連れて来たのは、多分あの女性だ。



「どうして……」

 まるで囚人の牢のような、鉄格子で覆われた窓を見て絶望に襲われる。

 私がなぜこんな所に閉じ込められなくてはならないのだろう。

 狭い部屋の中には一人で寝ても狭そうな古いベッドが一台あるのみだ。

 他には何もない。

 長年掃除をしていないのか床と壁は埃にまみれ、空気の入れ替えがされていないのか、じめじめとして篭った饐えた匂いがする。

 今までこんなに酷い部屋で過ごした経験はない。

 壁に小さな虫がうようよと這うのを見て、吐き気が込み上げ、私は口元を押さえ涙を流した。

 こんな事夢であってほしい。

 レイが裏切った事も、この牢獄に閉じ込められた事も悪い夢だったらいいのに。

 蹲り震えて泣いているとかつかつと響く足音が聞こえて来た。
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