きみは宇宙でいちばんかわいい
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ついに日本列島に梅雨前線がかかりはじめた。
ここのところ、うんざりするほど毎日、雨が続いている。

そんななか、久しぶりに太陽が顔を出した日の、帰り際のこと。


「なあ、きなこちゃん」


久遠くんから、なんの前触れもなく声をかけられた。


「このあとさ、なんか予定あんの?」

「え……べつにない、けど。突然どうしたの?」

「時間あるなら勉強つきあってよ」


後方のドアから教室を出ようとしたところ、通せんぼするように目の前に立たれたので、歩みを止めるほかない。


「勉強?」

「うん、古典の」

「ああ……」


実は日本語がペラペラな久遠くんだけど、第一言語はやはり英語なので、難しい言葉や、めずらしい漢字なんかは、少し苦手としているらしい。

それは、高校の授業で当たり前に扱っている古文と漢文も、同様であり。

毎回、古典の授業のはじめにある古単の小テストでは、10点満点中3点スコアできれば、彼にとっては御の字なくらいなのである。


「来月、期末試験あるだろ」

「そうだね」

「古典はいまから対策しとかないと、たぶん俺、けっこうやべーと思うわけ」

「なるほど……」

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