私はミィコ
私はミィコ
「……ミィコ」
「ん……」

何時なんだろう。
ぼんやり。

待ち望んでいた声が私を呼んだ。
だから私はにゃあと鳴く。

「ミィコ。ここで待っていたのか?」

目を開けると彼がいた。
待ち望んだ体温に抱きしめられる。
それが嬉しくてすり寄った。
頭をなでなでされて、それだけで心が満たされていく。


「にゃあ」

待ってた、をこめて鳴く。
伝わったのか彼は薄暗がりの中で微笑んだ。
ちゅ、と唇に触れるだけのキスをされる。

「ありがとうミィコ。お前に会いたかったよ、ずっと。遅くなって悪かった」
「にゃあ」

まるで泣きそうに声は震えていた。
よくよく見ると彼の肩も震えていた。
だから私は、顔をあげて頬を舐めた。
ぺろり、猫みたいに。


「ミィコ。慰めてくれるのか」
「にゃう」
「はは、お前は本当に可愛いな。愛しているよ」

目元や頬に言葉通りに愛しいを込めて口付けられる。
そう、私の答えはもう決まっている。


「ミィコ。……これからも俺の、俺だけの猫でいてくれるか」

彼が瞳を覗き込んでくる。
そこにはほとんどいつもと変わらない私が映っている。
その瞳の中の私は、知らない表情で微笑んだ。

「にゃあ」

もちろん、を込めて鳴いた。
ちりん、と首で鈴が鳴る。

私は何も知らなくていい。
戻れなくてもいい。

人間になってこの人のことを知って“ミィコ”でいられなくなるぐらいなら。

飽きられるまでは“ミィコ”でいようと思う。
そうすればきっと、この人に必要としてもらえるから。

名前も知らない、私のご主人様に――。



おわり。
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