それはバーの片隅で

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 夜しか開かないというバーの鍵を修司は持っていて、マスターとの信頼関係を見た気がした。
 身内だからと言われたらそれまでだけど、身内だからといって全ての人間と結べる関係かといったらノーだと私は思う。
 血がつながっていようと、別の人間だから。
 
 朝のバーは当然ながら誰もいない。
 昨晩来たときよりもずっと静かで、不思議な感じがした。地下にあるから朝日は届かないかなと思っていたけれど、窓の配置でうまく日が入り込んで電気も点けずに済んでいる。
 そして私はそんなバーの奥にあるキッチンで、フライパンを握っていた。

「スゴイ!芸術的な目玉やき!マジありがとー!」

 棚にある皿なら適当に使っていいからと言われ、拝借した皿に乗せた目玉焼き。
 カウンターの向こうで目をキラキラさせて皿を受け取った修司は、「見てよこれ!すごいね!?」とはしゃぎながら私に見せてくる。

「うん、ありがとう。でも作ったの私だから見せてくれなくていいです」

(なんでこんなことに……)

 朝メシを食おうかと言ったのは修司なのに、ここへ来るなり料理をせがまれた。
 それでもせめてお礼代わりにと簡単に作っただけなのにこの感激っぷりだ。最初は嫌味かと捉えてしまったけどどうやら修司は本気で喜んでいて、自分のこじらせぶりが嫌になる。


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