それはバーの片隅で

 気にならないと言えば嘘になる。
 気になると言うのは、ちょっとしゃくだ。

「あれ……人生相談所みたいなところってことですよね」
「聞きましたか」
「はい。なんていうか……意外でした」
「ははは。そうかもしれませんね」

 篠原くんを軽い子だと思ったことはない。
 初めてここで会った時は誤解もあってそう思っていたけれど、少なくとも会社での印象だって悪い事はなかった。
 というより、ほぼ印象になかったというのが率直なもので。
 あんなに色々考えているなんて驚いた。
 それに……

「……勘違いしちゃう子とか出てこないのかな、とかも思いますけど」
「勘違い?」
「人って弱ってるときにやさしくされると、ほら」

(あれ?なんかすごい恥ずかしいこと言ってる気がする)

「ああ、そういう」

 ステアしながら、マスターはまた微笑んだ。
 シェイカーにふたをして両手で包み、小気味よく振りはじめた。

「……すみません、何でもないです」

(これじゃ私が篠原くんのこと)
(……篠原くんのこと……)

 頬がだんだん熱くなってくる。
 電話のあった夜から、仕事中でも篠原くんのことが気になって仕方ない。


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