あの夏の空に掌をかざして

「…いいの?日向、先約とかないの?」


 顔をあげることもなく、蚊の鳴くような声で尋ねると、日向は優しい声で"あかりちゃんよりも大事な約束なんてないよ"と言った。


 頬に赤みが増していくのを感じる。日向にとっては妹に向けた言葉でも、あたしにはそれが、純粋に嬉しかったから。


 特別扱い……。今は、それだけで嬉しいや。


「えへへ、あたしも、日向より大事な約束なんてないよ!」


 とびっきりの笑顔を向けると、日向も嬉しそうに笑い返してくれた。


「じゃあ…一応仲直り?かな?」


「…そういうこと、なのかな?」


 見つめ合うと、どちらともなく吹き出して、あたしたちはまた笑いあった。


 不意に見上げると、はたと気づいた。


 あたしは今、座っている日向の足の間にいる。腰は日向の逞しい腕に支えられていて、さっきなんて、日向の胸で泣いていた。


 その事に気がつくと、恥ずかしさと照れが後になってやってくる。


 目の前には、日向の顔。ほんの少しだけ赤くなっている頬に、必死で探してくれていたんだと分かる。ほんの少し乱れている黒髪に、優しくとくんとくん、と刻む鼓動。見つめるあたしを不思議そうに見る、日向。


 その全てが愛しくて愛しくて、あたしはこんなにも日向が好きなんだと実感した。
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