あの夏の空に掌をかざして
 結局通話時間は一時間を越え、日にちも変わってしまっているけど、あたしのごちゃごちゃした主述のはっきりしない話を、楓は口を挟むことなく聞いてくれた。


 そして暫く無言だったけど、徐に口を開いた。


『それさぁ、あんたの悪い癖だよね』


「…………………………………………………………ぇ?」


 突然の言葉に動揺したあたしを無視して、楓は続けた。


『その諦め癖のこと!ほんっと粘り強くないってゆーか、打たれ弱いってゆーかさ』


 怒ったような口調に、少しだけ不安になって、スマホを握る手に力がこもる。


 楓は気が強いけど、滅多に怒るようなことはしないし、しかもそれを自分に向れられたので、少なからずショックを受けたのだ。


「ど…いうこと?」


『分かんないの?いっつもそうじゃん、大した努力もしないくせに諦めてばっかで、いっつも自信が無さそうでさ』


 心臓がドキンと鳴る。図星だ。あたしは、自分でも自覚するぐらい、意思が弱くて、粘り強くない。


『そんなことで諦められんの?あんたの気持ちってそれまでだったんだ?今まで相談受けてきて、応援してた私の身にもなってよ!!』


「っっ!」


 ハッとして、あたしは顔をあげた。寝耳に水をかけられたかのようだった。


 そうだ、あたしは、これくらいで諦められる気持ちだった?今まで、16年一緒に過ごしてきて、少しも褪せなかったこの日向への想いを?


 どんなに苦しくても虚しくても、好きでいつづけたのは、諦める勇気が無かったから。


 どんなに寂しくても報われなくても、想いつづけていたのは、それに勝るほどの愛おしさで心が満たされたから。


 目を瞑れば、日向のあたしに向ける顔が、あたしを呼ぶ声が、目蓋の裏に焼きついていて、こんなにも、想いがとめどなく溢れてくる。




ーーーーーー諦めたくない。


 あたしは、そう強く思った。
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