先生、僕を誘拐してください。


カーテンがふわりと舞う。
その向こうで、震えて泣いている奏が立っている。

スローモーションのように、村田くんの声が耳に入ってくる。

『多分、朝倉くんと付き合ってたと思う』


バスは、前方がめちゃくちゃで、軽自動車の運転手が速度を落とさずに正面から
突っ込んだからだった。
『運転手は持病もなかったので原因究明を急ぐとともに……』

そんなニュースを私は何回も見た。
でも相手の名前をどうしても思い出せない。
いや、聞かなかったのかもしれない。
聞いたら、許せなくなるでしょ。

許せなくて、憎くて、どうしても胸が苦しくなるでしょ。

「あんた……朝倉くんとその人が恋人って知ってたの?」

窓辺で悔しそうに睨む奏に聞いた。

すると奏は首を横に振る。

『違うけど、塾で朝倉くんに睨まれたって言ったでしょ?』
『もしもし? 誰か一緒にいるの?』

村田くんと奏の言葉が重なる。
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