先生、僕を誘拐してください。


後ろから声をかけられ、振り返ると怒った顔の真由が私を睨んでいる。

「おはよー。どうしたの?」

「どうした、じゃないよ。私は坂の一番下から何度も呼んでたの。それなのに気付かないんだから、私が綺麗な空に感動して奇声をあげてると思われたらどうするの」
「あはは。それは、まあないんじゃないかな」

真由はジャージ姿で坂を上ってきた。ということは、今は朝練の途中なのだろう。

スポーツ推薦で入学がほぼ決まっている真由には、受験勉強は必要なく、この先の受験戦争のレールから抜けだしていて、うらやましい。

だが、私もこの地獄の様な坂道を、ジャージで走り抜けたものだが今は走ると思うと嫌気がさす。きっと根性が無いから無理だろう。

「敦美せんせーがさ、放課後は遅くなるって言ってたの、またアンタ、進路指導室に呼ばれるんじゃないかな」
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