好きだから……
 だから、逆らえない。
 圭ちゃんの言葉が、どんなモノであろうと、あたしは逆らっちゃいけないんだ。

……なのに、あたしは圭ちゃんが満足するまでデキない。
 最後まで……イケない。
 ごめんなさい、圭ちゃん。

「シャワーが終わるまでに、出てけよ」
 圭ちゃんが、顔も合わせずに、ユニットバスへと入っていく背中を見送った。

 数秒もせずに、シャワーの水の音が聞こえてきた。

 帰らなきゃ。
 圭ちゃんが出てくる前に、あたしは部屋から姿を消さなきゃ。

 シャワーを浴びてすっきりした圭ちゃんは、もうあたしに用はないんだ。




 自宅があるマンションに帰ってくると、共同廊下で圭ちゃんのお母さんに会った。

「絢音ちゃん、ごめんなさいね~。圭一ったら、絢音ちゃんじゃないと、ドアも開けてくれないんだから」
 ほんと、困った子よね~、とボヤいてから、ホホホと圭ちゃんのお母さんが苦笑いを浮かべた。

 おばさん、圭ちゃんはあたしでもドアを開けてくれませんよ。
 開けるのが面倒くさいからって、勝手に入れ、と合鍵を渡されてるだけなんです。

 あたしも、圭ちゃんのお母さんに合わせて苦笑した。

「おばさんの肉じゃが、渡してきました。今夜の夕食にするって言ってましたよ」と、あたしは嘘をついた。

『こんなモノ食えるかよ』と、すぐにゴミ箱に捨てたなんて、おばさんに言えない。

 一人暮らしをしている圭ちゃんのために、栄養面を考えてちょこちょこと作ってくれるおばさんの愛情を、あたしは踏みにじれない。
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