カノジョの彼の、冷めたキス

冷めた唇にキス



副社長と皆藤さんの婚約が発表された1週間後。

彼女の婚約を祝うために、同期での飲み会が行われた。

場所は会社から徒歩10分くらいのところにある、貸切個室のある和食居酒屋。

金曜日の仕事終わりに、各地から同期が集まってきていた。


皆藤さんを取り囲んで、女子たちは副社長との馴れ初めを興味深げに聞きたがり、男子たちは同期一美人な彼女の結婚を悔しがりながらも祝福する。

その席に渡瀬くんの姿はなかった。


「あれー?今日渡瀬は?」

「仕事立て込んでて遅れるって」

近くに座っていた男子社員数人がそんな会話をしているのが聞こえてくる。

その会話は皆藤さんの耳にも届いていたはずだけど、彼女は渡瀬くんの名前にピクリとも反応していなかった。


「どうせお互い遊びだし」

その場にいるはずのない渡瀬くんの声がふと聞こえてきたような気がして、胸が痛くなった。



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