しらゆき姫の心臓食べた、
心臓に赤いしるし



こんなに消えてしまいたいのに身体は冷たくならなくて、ああやはり心臓とこころは別物なのだと思い知る。


やけにぼやけて見える視界に、ちらちらと白いものが舞っていることに気づき空を見上げた。

私と同じように空を仰ぐ通りすがりの女子高生グループが、「綺麗だね」なんて楽しげにはしゃいでいる。


綿雪が舞い散る闇色の空から、もう一度視線を前へと戻した。

そこにあるのは、さっきと同じ──仲睦まじく腕を組んで歩く、1組のカップルの姿。

そしてカップルの男性の方は何度まばたきをしてみても、つい3週間ほど前まで私の恋人だったはずの男だった。


……別れるときは、「他に気になるコができた」って言ってたくせに……あの様子だとどう見ても、付き合ってるじゃない。

私と別れてから、すぐ恋人同士になることができたのか。はたまた、私と“彼女”との交際期間は実は被っていたのか。

今となってはもうわからないしわざわざ確かめるつもりもないけど、どうにかこうにか終わらせた残業後、まさか会社からの帰宅途中にこうして新しい彼女と歩く元彼を目撃することになるとは思わなかった。


そうか、私はあのコに負けたのか。

私よりおそらくいくつか年下で、かわいらしい雰囲気の女性だ。仕事ばかりでかわいげのない性格の私と比べれば、たいていの女性は『かわいい』という括りになるとは思うけれど。

彼の中で私と彼女をふるいにかけた結果、あっさり私だけが網目から落っこちたというだけの話。私は、あの人に選ばれなかったというだけの話。

それだけのことなのに今、いっそこの雪にまぎれて消えてしまいたいと思ってしまっている自分は、自覚していた以上に弱い人間だったのかもしれない。
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