星空シンデレラ


外に出てみればもう薄暗くて、濃いオレンジ色の空にいくつか星が浮かんでいた。
ほとんど沈みかけていく夕陽をぼんやり眺めながら、私と遼夏はスーパーまで行く道のりの河川敷を歩く。

子供たちのはしゃぐ声や、虫の鳴き声、近くの家から聞こえる料理の音なんかを背景に、遼夏が私の方を向いて、優しく微笑んだ。

「今日は、すっごくいいものが見れた」

「自分たちの劇?」

「ううん、その後」

「遼夏が回転して足首をひねりかけながらもラリーを続けたところ?」

「ううん。…てか、それは忘れて」

「お菓子食べ過ぎて、その後のバドミントンでグロッキーになってたところ?」

「ううん。…わざとか?」

「だって、わかんないよ。…なに?」

「…久しぶりに、沙良が思いっきり笑ってる顔が見れた」


思わず顔を背けた。確かに、あんなに声をあげて笑ったのは、久しぶりだったような気もする。

「あっ、違うよ。俺は沙良が笑わなかったことを責めてるんじゃないからな?
笑うと幸せになるってのはほんとだと思うけど、ほんとにほんとに辛くて笑えないときに、無理に笑おうとしなくていいんだ。俺は、沙良にそんな無理をさせてまで笑顔が見たいわけじゃないから」

「…わかってる」

「ただ、やっぱり嬉しかったんだ。まだ大変なこととか、辛いこともあると思うけどさ…俺がすぐ隣にいるから。
だから、すぐには問題が解決できなくても、その間ずっと難しい顔をするよりは…笑顔でいてほしい。無理に笑ってほしいんじゃなくて、沙良が笑顔でいられるように、自分に優しくしてほしいんだ」

自分に、優しくか。
…そんなの、久しぶりに思ったかもな。

「…うん。ありがとう。はい、お礼」

「わっ、四つ葉のクローバー!?いつ見つけたんだよ?」

「ついさっき。得意なんだよ、探すの」

遼夏が、大はしゃぎしてクローバーを空に掲げている。

笑顔でいるってのは、そんなに難しいことではなくて…こんな光景があれば、私はそれだけで十分幸せな気がした。
遼夏が隣にいてくれる。
いつの間にか私は、それだけでホッとするようになっていた。

「もうすぐ新学期だな〜。沙良ならきっといい友達ができるよ!」

「うん、ありがとう。…ひとりでもがんばるよ」

「大丈夫、少なくとも同じ階には俺がいるから!」

「あははっ、ほんとにもう大丈夫だよ!」

軽口を叩きあいながら、すっかり生温くなった夜風の中を歩く。
空を見上げると、星がいくつも瞬いていた。
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