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そう思っていた――。
母に手を伸ばし、その背に触れる。
反射的に振り向いた母は一瞬驚いたような表情をした。
人違いではなく、それが母であったことに安堵する。


「やっと、会えた……」


涙ぐむ私を見た母は口を開いた。
と、同時に雷がゴロゴロと大きな音を立てる。
雷の音で母の声は掻き消されてしまった。
「え?」と聞き返すが、母は何も言わず、ただただ冷たい視線を私に向けていた。


「このガキ何?お前の知り合い?」


聞き覚えのない声が他方から聞こえ、その方向に目を向ける。
母の隣に1人の男性が立っていた。
今まで人混みの中、母を追いかけるのに夢中でいたため、全く気が付くことができなかった。
この男性は一体誰だろうか。
顰めっ面で私を見下ろしてくる男性の態度から、決して好意は向けられていないと感じ、少し距離を置く。


「こんな子知らない。誰かと間違ってるのよ、きっと」


男性からの質問に対する母の返事。
理解するのに数秒かかった。
理解したところで、視界がグラッと揺れる。

今目の前に立っている人物は間違いなく私の母だ。
長年一緒に暮らしてきた母を見間違うはずがない。
しかし母は私の目の前でそれを呆気なく否定してみせた。

呆然と立ち尽くす私を置いて、母は男と腕を組み、再び歩き出そうとする。
このまま引き下がるわけにはいかないと、私は慌てて母の腕を掴んだ。
焦りにより手に力が籠りすぎてしまったか、「痛っ!」と甲高い母の声が聞こえた。
同時に勢い良く手を振り払われる。
その勢いで私は地面に尻餅をついた。
買ったばかりの服はいつの間にか泥だらけに濡れている。

あーあ、折角買ったのに。
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