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『何をするところ?』
『お勉強』
『よくわかんないけど……、私も行ってみたいなぁ』


子供の何気ない一言、何気ない希望だった。
それを口にした瞬間、母の視線がこちらを向いた。
笑顔で話す私を容赦なく睨み付ける。
幼い私にも母の静かな怒りを感じとることは容易だった。


『学校になんて行かせるわけないでしょ?面倒臭い』


母のその言葉は、幼い私の心に深く刺さった。
母を怒らせた、悲しませた、期待を裏切ってしまった。
私は母のたった一人の子供で、母を悲しませてはいけない存在なのに。
もう軽々しく自分の想いを口にするのはやめよう。
そう、ひどい罪悪感に苛まれたのを覚えている。
いつからか明確に覚えているわけではないが、その頃からだった気がする。
母に従うようになったのは。

この生活を“異常”と捉えたことはなかった。
正常か異常か、なんて考えたこともなかった。
私にとってこれが“普通”だから。

母親が私に無関心なことも
時折ご飯を食べさせてもらえないのも
私に友達がいないことも
世界が私と母の二人だけであることも
外出を制限されることも
私が見ず知らずの男性に体を触れられることも
母が私を使ってお金を稼ぐのも


全部全部、私にとっては当たり前のことだった。
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