【完】☆真実の“愛”―見つけた、愛―1


「…おい」

「…ん?私?」


抱き締め合う夏翠たちを無視したまま、薫が話しかけたのは、まさかの沙耶。


「お前、名前は?」

「黒橋沙耶ですが?」


臆することなく、そう言った沙耶は強いのだろう。

薫の威圧に後ずさりもしないのだから。


「そうか。忘れるかもしれないが、覚えとく」


薫は基本的に人の名前を…つか、女の名前を覚えない。

記憶力は悪い方ではないが、単純に覚える気がないからだ。


「何ですか、それ。矛盾してますね……」


ここで、薫に言い寄る女ならば、泣くか、名前を覚えておいてほしいと懇願する。


けど、沙耶はそんなことはせず、それは、それで、まぁいっかみたいな感じで、隣に座っていた生徒会長に話しかけた。


「ねぇ、柚香、転入生ってこれだけ?」


「えっ、え、…一、二……五…うん、とりあえず」


沙耶の態度に驚いているらしい柚香ちゃんは、人数を数えると頷いた。


「じゃあ、資料を渡して、学校案内しよ。まだ、やらなきゃいけないこともあるんだし」


チラリと、彼女が視線を投げた先の生徒会長の机の上には、仕事と思われる紙がたっぷり。


「そだね」


すでに諦めたというように、束の紙を見つめる柚香ちゃんは、ショートの髪を揺らして。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。華西高校、生徒会長の月島柚香です。えっと…まず、聞きたいんですが…」



柚香ちゃんの視線は、抱き合う二人と後ろで静観していた叶夢に。

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