副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない

　一人で入るには落ち着かない広さの大理石の湯船に浸かり、ようやくほっと息をついた。

　ふと唇をそっと指でなぞると、言い知れぬ恥ずかしさが全身を駆け巡る。

　いたたまれなくてお風呂に駆け込んでシャワーで冷水を浴びてみたけれど、火照る身体はそう簡単には冷めてくれそうにはなかった。

　もう、副社長は強引すぎる……。

　もう何度目だろうか、再び先ほどの出来事を反芻してしまった私は一瞬で逆上（のぼ）せてしまいそうになり、湯船にブクブクと泡を吹いた。

　そしてふと、今さらになって頭に過ぎった一抹の疑問。

『自分を信じろ。誰よりも自分のために』

　彼の口から囁かれた瞬間、一瞬本当に心が繋がったような気がして、胸が激しく轟くのを感じた。

　これは、私も今日まで自分を奮い立たせるために心の中で何度も繰り返してきた言葉だ。

　まさかこんな偶然があるなんて。こういう偶然を必然というのだろうか？

　思いを巡らせて思わずハッとした私は、浴槽に突っ伏しながら、いつまでも冷めてくれない熱が引くのを待った。