struck symphony
余韻嫋々…



月明かりの虹に
ピアノコンサートの余韻も合わさりながら、
陽音は、恵倫子を車へと促し、
3人を乗せたR8は、軽やかにV10を唸らせ
陽音のマンションへと向かった。



ーー



マンションの地下駐車場へと車が差し掛かったとき、
前方から フラッシュのようなものが…

陽音は、異変を察知し、車を停める。

すると、
直ぐ様 何者かが木陰に隠れるのが見えた。

それが何かはわからないが、
陽音は、感づくものがあり…


「ちょっと見てくる」

「え、…なにかあったの?」

「うん…。わからないけど、
誰かが隠れたみたいだから、ちょっと見てくるよ。
危ないかもしれないから、車から降りないで、
此処に居て」

「うん、わかった。気を付けてね」

「うん」


陽音は、運転席から降りると、
その方へと ゆっくりと歩みを進めた。


“勘違いかもしれないが…。

それならそれで、
尚更 得たいの知れないままでは…危険だ…”


そう思いながら、陽音は、木陰の近くまで行き、
立ち止まった。

そして、
その方に目を凝らしながら、問い掛けてみた。


「撮られたのですか?」


相手からの応答は無い。


「こちらは、逃げも隠れもしませんよ。
ただ、相手が不明だと不気味なので、
出てきて貰えませんか?」


尚も、相手からの応答は無い。


陽音は、推測から断定へ 強い口調で言った。


「写真のプロが撮り逃げですか。
面と向かって 堂々と仕事をされたらどうですか」


すると、
木陰から 男が出てきた。
手には カメラを持ち…。

“やはりな…”

陽音は、確信する。


「初めまして。どちらの記者の方ですか?
記事なら、拝読したいので」


そう言う陽音に 名刺を差し出した男は、
スクープ記者だった。

陽音が、感づいたとおり。



そう、感づいたとおりながら、
まさか自分が対象に?と、
陽音は、不思議さや妙な気分に思う。




男は、姿を現した途端に 饒舌になった。


「ピアニストの香大陽音さんですよね。
一緒に乗ってる方は、恋人ですか?
いつからの?」


陽音が、しつこくされないよう、
どう対処しようかと 相手を見据えながら、
ノーコメントに黙っていると、


男は、立て板に水に 言葉を続けた。


「読んでくださるなら
ちゃんと記者にしたいので。
あ…、
さっきの写真、うまく撮れてるかどうか…。
どうせ載るなら
バッチリ綺麗な写真がいいでしょう?
自然な おふたりを もっと撮らせていただこうと思って、潜んでたんですけどねぇ…
あっそうだ…、 堂々と仕事しますので、
改めて、ツーショットをお願いできますか」



開き直ったように饒舌になる男に呆れながらも、
恵倫子に迷惑を掛けたくない陽音は、
苦笑いしながら 男に言った。


「プライベートなことなので」

「言ったじゃないですか、堂々と仕事しろ って」


“まぁ…なんとまぁ~、
された事を嗜めれば、そう来るか…”


陽音は、更に呆れながら 男に言った。


「私は いちピアニストですよ。
誰も興味ないと思いますよ」

「いえいえ、御謙遜なさって。
有名な一流ピアニストさんじゃないですか。
皆、知りたいですよ」


陽音は、
嬉しくもなく、これ以上 話すこともなく、
恵倫子を待たせられないとの想いで 話を締め括る。


「まぁ、私のことでも記者にしたいと仰るなら、
光栄ですので、どうぞ。
どう書かれるおつもりなのかは、確認してないので
わかりませんから…、プロの貴方次第ですね。
お疲れ様です。
失礼します」


会釈をし、立ち去ろうとする陽音に、
記者は、言葉を投げた。


「プライベートなことなので ってのは、
恋人って、認めたってことですねっ」


陽音は、自分の発言を撤回する気もなく…


「そうです。
一般の方なので、どうか
そっとしておいてください。お願いします」



陽音は、性分のままに正々堂々と言うと、
車へと戻って行った。



速やかに運転席へと乗り込み、
恵倫子を安心させて、車を発進する。


再び、記者の男の前を通ることに、
陽音は、撮られることを覚悟したが、
フラッシュが炊かれることは、なかった。



陽音は、不思議に思いながらハンドルを握り、
R8は、地下駐車場へと吸い込まれ 消えて行った…





記者の男は、
一流ピアニスト香大陽音に プロだと言われ、
そして、
自分の問い掛けに 正々堂々と答えてくれたことが、
よっぽど嬉しかった様子…。


自分の仕事が出来たことも含め、気分上々に
男は、この場を立ち去った。



ーー



帰宅した陽音は、
さっきの事を恵倫子に伝え、恵倫子と話し合い、
自身の言葉で知らせたい想いも告げ、
そして、
真摯な面持ちで、パソコンに向かった。


久し振りな更新ながら、
こんなにも緊張しながら
パソコンに向かったことがあっただろうか…



“あっ、
あったか。 今回のワールドツアー。

あっでも…、その緊張とは… また違うな…”



そんなことを感じながら、
陽音は、初めて味わう不思議な感覚のなか、
キーボードを打ち始めた。




自分自身、謙虚な心ながらに、
ピアニストとしての精進を心掛けてきた。

だから、
プライベートなことは、
わざわざ題材にすることは、考えてなかった。



だが、
事態は、変わり…



記事が出る前に、
日頃から応援してくださっている皆様への
けじめとして、自分から伝えたい
と、
大袈裟にならないよう、簡潔明瞭に、
陽音は、自身のブログを 更新した。





早速、反響が多かったのには、驚かされた。
が、
皆からの優しくあたたかい言葉に、
自分から報告したことは、良かったかもしれない…と、
陽音は、胸を撫で下ろした。



ーー



後日、
【一流ピアニストの熱愛!】と題して、
交際記事が発売されたが、
紳士に対応する陽音のことが、重点的に載せられていた。



読んだ人々は、好感な気持ちのまま、
陽音の恋を応援する、祝福モード。



まぁ…、驚き嫉妬する声も

あったとか、なかったとか…








大輪の花が、溢雫に実を付ける気配…






ーー











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