その恋、記憶にございませんっ!
「だから、俺はお前が好きなはずだし、お前は俺を好きなはずだ」

 いや……酔ってたんですよねー?

「とりあえず、お前の婚約者の会社を潰して、お前と住む家を買おう」

 金ならある、と蘇芳は言う。

 会ったばかりでなんなんですが。

 おそらく、貴方の人生、今までも間違ってばかりで、それに気づいてないだけなのではないですか?

「とりあえず、唯。
 うちへ来い。

 両親は居ないが、執事と使用人に挨拶しろ。

 特に執事の宮本は、俺の親代わりだから。

 俺と五つしか違わないが」

 最早、なにを言っているのか、意味がわからないし。

 きっと私はまだ寝てるんだろうな、と唯は思っていた。

 酔って連れて帰ってしまったフライドチキンのおじさんの冷たい頭を撫でながら。

 本当はまだ、安アパートの布団にくるまり、眠っているのに違いない。

 そのうち、台所の小さな窓から差し込んでくる強烈な日差しに瞼を焼かれ、いつものように目覚めることだろう。

 そんな安易な想像をしながら、この不思議な男の後に、うっかり、ついて行ってしまったのだ――。



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