走れ、と。
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澄み渡る、とはよく言ったものだと感心している。私の眼前は、真っ白である。頬には柔らかいシャツ。


「なに。」


ふとその声に我に返る。つまり、どこかから帰還した。


「あ、ごめん。うっかり物思いに耽ってた。」


ああ、同じクラスの子かと思いながら答える。彼は、ああそう、とどうでもよさそうに反応し、私を追い越していく。そこでやっと、私はぼけっとしていたあまり、真っ正面から彼にぶつかったのだと気づいた。

体育館と校舎を結ぶ廊下は、いつも休み時間は人通りが多い。学校、もしくはクラスのピラミッド上位の者たちが集い、それぞれにグループを作り、我一番とばかりに主張しあう場所だ。

私は決して、そんなことに関心は無いが、友人はそのことにご執心だったりする。


「遅いぞー、奏。」


奏、カナデ、と腕に絡み付きながら、プリプリと言葉が似合う反応をして、私を真っ先に見つけてくれたのは留美である。


「ああ、うん。呼び出されてた。」

「告白?男子?だれ?」

「ああ、間宮ちゃんだよ。進路どうすんのって。」


なんだ、となんとも詰まらない反応をし、みんなの話に戻っていく。私は何となく、30歳を迎える独身彼氏なしの担任、間宮ちゃんから言われた事を思い出した。

今しかないのよ。

今しかない、って何なんだろう。いつだって今しかないんだから、言われなくてもわかっているが、不思議と気になる言葉だった。


「奏は?どうする?」


ふいに振られ、なにが、と返す私に中津くんが苦笑いする。
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