ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜

『そうか…今度は俺と一緒に行こうか⁈』


『はい、楽しみにしてます』


『うん、俺も…まだ、石塚さんと一緒なの?』


「いいえ…お店で別れて、今は1人で帰ってる途中でした」


峯岸といてもやましいことはないのに、なぜか言わなくてもいい事を言ってしまっていた。


『…そっか、気をつけて帰るんだよ』


「はい」


『また、連絡する』


「おやすみなさい」


『おやすみ…気をつけてね』


やっと、電話が切れた事にホッとして、大きなため息をついた。


「うそつきだね」


惹きつけられるような妖しい笑みに、繋がれた手は振りほどけない。


その手をぎゅっと握られて交差点を過ぎると、建物の影に隠れるように立ち止まり抱きしめられる。


「…峯岸、さん?」


「1人で帰ってる途中なんて言いながら、彼氏との電話中に、他の男と手を繋いでいたって浜田が知ったらどう思うかな?何もなかったなんて信じてくれると思う?」


口調は穏やかなのに、まるで脅しに聞こえる。


「それは…」


「手を振りほどかないのはどうして?」


この手を離したくなかったからだ。


「浜田が好きなんだろ?」


抱きしめながらそんな事を聞くなんて卑怯だと思った。
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