ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜

「大丈夫か?」


愛しむ眼差しで、2人の関係に気がつかず美姫を心配し大事にしてくれる浜田に罪悪感でいっぱいになる。


峯岸と濃厚なキスをしておいて、今更、罪悪感を感じるぐらいなら峯岸を拒むべきだったと心が叫ぶ一方で、あの魅惑的な誘惑を拒める人はいるのかと新たに心が叫びだす。


浜田を裏切れない…


いや…


これ以上裏切るべきじゃない。


「美姫ちゃん、お大事に」


タクシーを前にして、峯岸の他人行儀な言い方に今し方、決意した思いも簡単に揺らいでしまう。


どうして…
自分の心はこんなにも、もろいのだろうか⁈


「じゃあな、浜田…最後にお前と飲めて楽しかったよ」


「最後って…また声をかけるよ」


「部外者になるのにか?」


意味深な会話に、峯岸を見つめずにはいられない。


「同期は同期だろ⁈その時は引く手数多な敏腕秘書になってろよ。俺は、課長以上のクラスになってお前を秘書にスカウトしてやるからな」


「そうだなぁ…その時は頼む」


男同士笑い合い、くだけた会話に美姫だけが取り残されていた。


「じゃあ…おやすみ」


「あぁ、おやすみ。美姫ちゃんも…」


思考がついていかない美姫は、去っていく男の背を浜田に声をかけられるまで見つめていた。
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