王子様の溺愛【完】※番外編更新中
抱き上げられたことで依人との距離が一気に縮まった。


「縁、ちゃんと捕まってて。落ちちゃうから」

「はいっ」


縁は言われるがままに依人の肩にぎゅっと掴まった。


(心臓が壊れそう……こうしていると、先輩が本物の王子様みたいだ)


激しく打ち続ける鼓動が依人に伝わってしまうのではと思うと、鼓動は更に暴れだしてしまう。


依人は縁を抱えているにも関わらず、残りの石段を軽やかに登り詰めたが、縁には長い時間に感じた。


境内に辿り着き、ようやくお姫様抱っこは解除された。


「あの……ありがとうございました」


降ろされた今も鼓動は落ち着きを見せない。


「あんまりつれないこと言わないで。折角縁といるのに一人で見たってつまらないから」

「すみません」


小さく頭を下げると、依人の大きな手のひらがぽんと頭に触れた。


「それに俺が縁から離れるわけないでしょ」


コツンと軽く依人の額が縁の額と触れ合い、また縁の鼓動を逸らせた。


「せ、先輩、近いです……」

「縁の顔真っ赤だよ」

「へ!?」


慌てふためく縁。
依人はくすっと甘い笑みを零した。


日はとっくに落ちているのだが、吊るされた提灯の灯りのせいで赤く染まった頬が見破られたようだ。


「だって……」


固まったまま依人を見つめていると、顔が近付いていき、額に柔らかい感触が触れた。


「ひゃっ」


ちゅっ、と言う可愛らしい音からして、紛れもなく口付け以外の何物でもない。


(額でもドキドキするよっ。キスしてなんてやっぱり無理……っ)


ドキドキし過ぎてまともに依人の顔が見れなってしまい、思わず顔を俯かせた瞬間――


ぐいっ、と思い切り引き寄せられ、力強く抱き締められた。
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