王子様の溺愛【完】※番外編更新中
(これ、安くても一泊数万円する高いホテルだ!)


以前テレビで、クリスマスにおすすめの宿の特集で出てきたのを覚えていたので、驚きのあまり目を丸くさせた。


「いいの……?」

「お母さんは今年も独り身ですからね。それにせっかくのイブだもの、縁に使って欲しいの」


母は自分のことを冗談交じりに茶化すと、優しい笑みを浮かべながら縁の頭を撫でた。


縁の父は昔交通事故で亡くなった。
母は身内の贔屓目抜きで見ても綺麗な人なので、その気になれば恋人はすぐに出来そうだが、未だに一途に父を愛している。


そろそろ幸せになってもいいのでは……と思うが、その一方で一途な母を日頃から素敵だと素直に感じていた。


「お母さん、ありがとう。明日先輩に話してみるねっ」


縁は破顔させながら母に何度もお礼を告げた。





その日の夜、縁はベッドの上で布団に包まってうとうとと微睡みながら、宿泊券を入れたスクールバッグを見つめた。


(先輩、いいよって言ってくれるといいなぁ……そしたらもっと一緒にいられるのに。でも、先輩は受験生……)


淡い期待を抱くが、受験生と言う事実が縁を現実へ呼び戻していく。


(うーん、一か八か、ダメ元で言ってみようかな)


そう結論に達すると、縁は眠気に逆らえず意識を手放したのだった。





翌日の昼休み。


思い立ったら吉日と、早速依人に宿泊券を貰ったことを話した。


「先輩は受験があるので無理にとは言いませんが、どうかなって思いまして……」


縁は依人がどんな返事をするか気になって、緊張しながら窺うように見つめると、依人は目を細めて笑みを零した。


「……いいよ。縁のお母さんの厚意に甘えさせて貰おうかな」

「ありがとうございますっ」


縁はぱぁっと花が咲くような満面の笑みを浮かべ、喜びを露わにした。


「そんなに俺と一緒にいたかったの?」


依人はくすっと甘い笑みを浮かべると、縁の髪を愛おしむように梳いていく。


「……っ、そ、そうですよ」


縁は真っ赤な顔で依人の黒地の学ランの裾をきゅっと握り締めて頷いた。


放課後は相変わらず一緒に帰っていたが、受験中の依人に気遣ってデートを自重していた。


「大事な時期なのにわがまま言ってごめんなさい」

「謝らないで。縁のわがままは貴重だから俺は嬉しいよ? それに縁に独占されるのは大歓迎」


(先輩ったら……!)


縁は依人の顔をまともに見れなくなり、頬に集まる熱を自覚しつつ目を伏せて逸らした。
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