王子様の溺愛【完】※番外編更新中
その日の晩、縁は依人が大学の授業とアルバイトが終わった頃を見計らって電話をかけた。


遠距離恋愛を始めてから、平均週に二度は電話をしているが、毎回電話をかける時は緊張してしまう。逆に依人がかけてくる時も緊張してしまう。


縁はコール音を聞きながら、無意味に自室を歩き回っていた。


「もしもし」


四コール鳴った後に耳元に届いたのは大好きな声。


「もしもし、こんばんはっ」

「こんばんは」


縁は立ち止まると敷かれた絨毯の上で正座になった。


「講義とバイトお疲れさまです。あの、電話大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。待っていたから」


縁は一度深呼吸すると、単刀直入に入試の結果を依人に伝えた。


「あの、大学受かりました……春からまた同じ学校です」

「おめでとう。二年間よく頑張ったね」

「ありがとうございます……先輩が支えてくれたお陰です」


受験勉強は全て順調だったわけでなかった。
成績が落ちた時期があり、心が折れそうになった時、依人は縁の不安に耳を傾けては励ましてくれた。


「次会う時にお祝いしなきゃね」

「会ってくれることがあたしにとってお祝いですよ」

「それだけじゃだめだって」


依人の小さな笑い声がした。


もうすぐ電話越しではなく、面と向かって依人の声が聞けるのだと思うと、縁の鼓動は高鳴っていく。


「春になったら一人暮らしするの?」

「多分、前の家に戻ることになります。今は母方の従兄弟が住んでて、前々から大学が決まったらここに戻ってくればいいって」


一人暮らしは密かに憧れてはいたが、「縁ちゃんが一人暮らしなんて危ない」と従兄弟に反対されてしまった。


「そっか……」


依人はそう呟いたきり、しばらく黙っていた。


「あの、先輩はあのマンションにまだ住んでいるんですよね」

「そうだよ」

「またご近所さんですね」


縁は目を細めて破顔した。


「同じ時間帯に講義があったら一緒に行こうか」

「はいっ。お弁当も一緒に食べたいです」

「一緒に食べよう。縁の手料理飢えてるよ」

「っ、その機会があったら先輩の好きなもの作りますね」


二人はこれからのキャンパスライフについてお喋りに花を咲かせていた。


依人と電話を終えると、縁は机の上に置いてあるキャラクターものの卓上カレンダーを手に取る。
ペン入れ代わりのマグカップから赤いサインペンを取り出すと、今日の日付にバツ印を大きく書いた。


依人と会える日を待ちわびながらバツ印を書く日々も後少しで終わるの思うと涙腺が緩みそうになる。


「早く、会いたいです……」


縁の独り言は部屋に静かに響いた。
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