光~明るいほうへ~


さようなら。

そう思って目をつぶった瞬間。
グィッと、誰かが私の手を引っ張った。

次の瞬間、電車がものすごいスピードで私たちの横を通過していく。
風圧と線路を滑る音が耳をつんざく。

車内からもれる明かりが目の前の人を照らしては消え照らしては消えていく。

やがて電車はいなくなり、ガタンゴトンガタンゴトンと小さな音を立てて、その音も耳の奥で響くだけとなった。


その場にヘナヘナとへたり込んでしまった。

「なにやってんだよ!」

目の前の人は怒号を浴びせる。

「なんで……。なんで助けてくれたの……」

明夫の表情がみるみるうちに険しくなる。

「はぁ?なに言ってんだよ、バカか!」
「バカだってわかってるよ、言われなくても……」

涙でにじむ。
こんな時に泣くなんて卑怯だなんてわかってる。

悔しくて哀しくて、こわくて。だけど、明夫が助けてくれたことが嬉しくて。
涙が止まらなかった。

明夫にとって自分の知ってる人間が自殺しようと試みているのを見つけたから。
たまたま見つけたからにすぎないだろうけれど。

それでもやっぱり嬉しい。


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