今年の夏もキミを想う…。

画面を確認してボタンを押すと、携帯を耳に軽く当てる。


「はい、もしもし?母さん、今どこに……」


ぶわっと勢いよく風が吹いて、青臭い緑の匂いを巻き上げた。

そこら中に生えた雑草がザワザワと風に揺れて、驚いたように虫が飛び上がる。

顔を上げれば、勢いよく流れた雲が太陽を覆い隠すのが見えた。

つかの間の日陰を、夏の風が吹き抜けていく。

通話を終えて携帯をしまうと、再び太陽が顔を出した。

強い風によって雲が流され、青の面積が広くなった空を、ぼんやりと眺める。


「夏だなあ……」


また今年も、彼女のいない夏がやって来た。
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