俺様ドクターに捕獲されました


「……言っとくけど、そんなに頻繁に泣いてるわけじゃないからな。今日は、親しくしてた人だったから」

「うん、わかってる。でも、私のところでね」


ちょっとムッと唇を尖らせた彼が、顔を乱暴に拭って立ち上がった。それから私を引き寄せて、そっと瞼にキスをした。


「さっき、お前の涙拭いてやれなくて悪かったな。お前も、泣くときは俺の胸で泣けよ。泣き顔、他の男に見せるな。酒も俺のいないところでは飲むな。無防備な顔で笑いかけたりするな」

「な、なんでそんな話になるの?」

「ついでだから、言っとこうと思って。りいは危ないから、早く俺のって印つけときたいな」


つっ、と左手の薬指をなでた彼が、私の指に自分の手を絡む。


「行くか、おばちゃんのこと見送りに。手、繋いでやるよ。怖かったんだろ? 階段をあがってきたときも、ビクビクしてたもんな」


すっかりいつもの調子を取り戻した彼に笑われて、赤くなりながらも彼の手を握り返す。


彼との距離が近づいて、本当の意味で恋人になれた気がしてうれしくなった。


「うん、繋ぐ。あのね、アロマ使って身体を清めて、最期のお化粧したの。すごく綺麗だから顔見てあげてね」

「そうか。りいと頑固親父が妬くくらい褒めてやろうかな」

「そこまで心狭くない!」

手を引かれながら、階段を降りていく。幼い頃と同じようで、あの頃とは違う。


ひとりではなにもできなかった無力な自分とは、もうサヨナラしたから。


今の私には、彼のためにできることがあるはずだ。大きな背中を見つめながら、私は彼の隣でそれを模索し始めた。

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