俺様ドクターに捕獲されました


「遅い」


再び彼の部屋を訪れた私に、彼は勝ち誇ったような笑顔でそう言った。


「お前、二度も俺から逃げ出すなんて、覚悟はできてんだろうな」


こ、怖い。すごく怖い。でも、負けない。誰も助けてはくれないんだから、逃げきるためにもここに来るまでにたてた作戦を実行しなければ。


「……大変、申し訳ございませんでした」


丁寧にお辞儀をして謝罪を口にした私に、彼は片眉を上げる。


「りい、お前……」


眉間にシワを寄せて私に伸ばしてきた手を、華麗に避ける。ますます眉間のシワを深くする彼に怯みようになる心を奮い立たせて、セラピストとしての顔に彼に向ける。


作戦その一、徹底的にプロのセラピストとして接する。セラピストとお客様は、不用意な接触などしないのだ。


「先ほどは、個人的な感情で逃げ出してしまい本当に申し訳ありませんでした。いちセラピストとして戻って参りました。仕事中ですので、宇佐美様もそのようにしていただけると大変助かります」


ニコリと営業スマイルで微笑むと、彼はなにを考えているのか、じっと私を見つめてくる。


その鋭い眼光にひぃ、っと心の中で悲鳴をあげながら、必死で笑顔を保つ。

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