俺様ドクターに捕獲されました


「選ばせてやるよ、りい。このまま全部、俺のものになるか、ここで俺と暮らすか。ま、俺のオススメは前者だな。どうせ、いずれは俺のものだ」


神様、私がいったいなにをしたのでしょうか? あのときの決断は、やはり間違っていましたか?


そのふたつのあってないような選択肢から選ぶしかないのなら、答えなんてひとつだ。


「……同居、で……お願い、します」

「ふん、無駄なあがきだな。まあ、いいだろう。責任をもってしっかり癒せよ、りい」


うなだれる私に、彼は満足そうに微笑んで頰にキスをした。


ああ、時間が戻るなら佳乃さんにこの仕事を頼まれたあの瞬間に戻りたい。


そうしたら今頃家で、おいしいパスタとワインに舌鼓をうっていただろうな。明日が休みだから、とっておきのを開けようと思っていた。


「この状況で考えごとか。ずいぶん余裕だな、りい。まだ足りなかったみたいだな」


ニヤリと笑って、彼が唇を重ねてくる。そのぬくもりと柔らかさが、現実逃避していた意識を現実に戻す。


少しくらい、現実から逃げることを許してくらてもいいのに、彼は許さないとばかりにキスでそれを奪っていく。


「りい、……里衣子」


名前を呼ぶ声も、間近にある瞳も、どこか切なげな色を滲ませている。


それは、今までに私が見たことがない彼の姿。


「里衣子、どこにも行くな」


私の身体を強く抱きしめて、耳元でささやかれた声は、どこか苦しげだった。

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