いつか君と見たサクラはどこまでも
【赤坂優馬】
前回の失敗をバネに、今回は勉強もしっかりしたし、面接の特訓も何度何度も繰り返した。

本当に色んなことがあったこの冬。

きっと全ては今日のための教訓だったのだろう。

まだ未熟で何も知らなかった俺達に、たくさんのことを教えてくれた人には、感謝しきれないなって改めて思う。

「今日は綺麗に晴れてるね」

母さんがカーテンを開けて、そう呟いた。

「前の時は雨だったっけ」

さりげなく言葉を返して、リビングにある仏壇のそばに歩み寄った。

「そうね。きっと翔のおかげよ。翔も優馬のことを応援してくれてるのよ、きっと」

母さんも隣にやって来て、座布団の上に腰を下ろした。

二人で線香を立てて、合掌した。

──翔、行ってくるね

翔が負けずに頑張ったみたいに、俺もやりきらなきゃ。弟になんかまけてられないよ。


「優馬」

バッグに荷物を詰めていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。

「父さん……」

真っ先に目が行ったのは、父さんが一人で車椅子に乗っているというところ。いつも誰かの支えがないと乗られないのに、今は一人で乗ったようだ。

「お前に話さなければいけないことがある」

父さんはそう言うと、弱々しい手で手招きをした。

俺はその手招きに吸い寄せられて、父さんの目の前に立った。

「お前、学校でなんかあだ名つけられてるみたいだな」

なんで父さんが?って思ったけど、それは声に出さなかった。

「うん、『元王様』って言われてる」

本当はそのあだ名が大嫌いで、自分の中の大きなコンプレックスだった。

何かミスを犯す度に、「やっぱりお前は『元王様』だな」とか、「お前は絶対に『王様』には戻れないな」とか言われてきた。

ずっと気にしないようにしてきたけど、やっぱり耳に残って、後からコンプレックスへと変わっていった。

「別に『王様』にも『元王様』にもならなくていいんだ。だってお前は『赤坂優馬』だろ?」

その言葉は、俺の心に大きく響いた。

そうか、そうなんだ。

俺は俺で、みんなはみんな。

赤坂優馬は一人しかいなくて、別に『王様』でも『元王様』でもないんだ。

「そうか……俺は」

父さんの目を見つめると、父さんは俺の手を強く握りしめた。

「だから、周りを気にするんじゃない。お前が今進むべき道は目の前にある。誰に何を言われようと、そこだけを真っ直ぐ進むんだ」

もう一度ギュッと握られた手がとても温かくて、安心できるものだった。

俺の道は俺が決める。誰に何を言われようと。

「悔いなくな。やりきってこいよ」

父さんは最後にトンと肩を叩いた。そしてニッコリと笑って、俺の背中を押した。

「うん、行ってきます」
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