空高く、舞い上がれっ。

好きと言える喜び




「カツ丼が食べたい」

お殿様、何でもお申し付けください。と、小声で輝空くんが頭を下げたのは金曜日の3校時の授業中。

「は?購買のカツ丼でいいの?」

「やだ‼殿はカツ吉のカツ丼が食べたいんじゃ~‼」

机の下の足をバタつかせてだだをこねてみせる。

「カツ吉は高いからラーメンにして‼」

両手を合わせる輝空くんはなかなか面白い。

この前の総体で、わたしの部は団体戦の関東大会出場が決まった。

「はぁ~、指切りなんてしなきゃよかった」

過ぎたことは悔やまない♪と、わたしが肩をポンポンたたくと、お前は調子いいやつだなぁ。と輝空くんが笑う。わたしもつられて笑った。

「じゃあ、土曜日は日帰り遠征だから日曜日‼空けとけよ」

「え!?ほんとにいいの?」

「約束は約束だからな」

わーい‼と、喜んだその時。

「まぁーたお前らかぁー‼歩舞、教科書次のところ読め‼」

小声だったはずがいつの間にか大きくなっていたらしく、日本史の教師に怒鳴られてしまった。輝空くんはそんなわたしを見て、アホじゃん♪と馬鹿にしたように笑ったけど──

「輝空‼お前もその次を読んでもらうからな」

教科書に隠れて小さく縮こまった。


日曜日の約束。
こんな展開を、わたしは心のどこかでずっと前から待ち望んでいた気がする。
< 117 / 268 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop