空高く、舞い上がれっ。
「でも、同じ列なんだからいいじゃん♪」

席に座ったまま後ろを向いてわたしに話しかける寧音の前の前の方に輝空くんの後ろ姿が見える。
同じ列でもしょうがないような……と、思いながらも。

「プリント回収の時にスキンシップが取れる特権があるじゃん‼」

と、目を輝かせて主張する寧音を見ると、何も言わない方がいいような気がした。

「おばちゃん、この授業終わったら購買行ってきてよ~」

少しひ弱そうな感じの印象のその男の子は席替えをした日からわたしをおばちゃん、と呼んでいる。
理由、わたしの声がうるさいから(らしい)。

真っ白な顔にほくろが目立つので、わたしはよくそいつをクロと呼んでいた。

「そんなん自分で行けー」

頼みを断ると「あたしが買ってきてあげよっか?」と、寧音が救いの手をさしのべる。そうすると寧音の隣の席の男の子が振り返り「ウーロン茶よろしく」と、便乗してくる。

だいたい、こんな展開になるとその後はどこぞのひ弱男がトランプを取り出して「大貧民で買い出し役決めようよ‼」と、言い出す。

いつの間にか最近のお決まりパターンになっていた。


意外と楽しい学校生活、大好きな彼氏。この時のわたしは、高校生活の中で一番悩みなく花開いていたような気がする。


「雨降らないかな…」

窓から見えるあいにくな晴れ模様に今日も願いを込めた。


例えば、もう少し我慢をすれば違った未来があったかもしれない。そんな後悔をしたのはハートのエースを出した後だった。
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