【完】『藤の日の記憶』

宇治から京阪線の中書島で乗り換えをする頃には日が暮れていた。

途中、一誠はカナに、

「うちと由美子やったら、一誠くんはどっちと付き合いたい?」

いちばん訊かれて困る質問が来た。

「うーん…まだどっちのこともよう知らんし、決められへんなぁ」

これは一誠の偽らざる言葉であった。

「なんで?」

「だって正反対やん」

一誠は続けた。

「カナやんはカナやんで明るいし楽しいし、由美子ちゃんは物静かやけど知性的やし、魅力的な面では同じやからねぇ」

ただ、と一誠は、

「でもうちは多分、いつか分からんけど関西を離れると思う。そのとき一緒にいてくれる女の子がいいかなってのはある」

このとき。

言葉にしながら一誠は、恐らく自身は地元を出たら戻らないような、そんな気がしていたらしい。

「…そうなんだ」

由美子が小さく呟いた。



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