遺伝子ちょうだい!
昼休みのことだった。
会社の休憩室でお昼を食べていると、後輩の田辺サンがやってきて、今にも消え入りそうな声で、あのぉ……と、心から言いにくそうに、そして、死ぬほど申し訳なさそうに、話を切り出してきた。
私はとびきりの笑顔で、それに答える。

「なぁに? 田辺サン」
「ヒィッ……! あああああ、あの、この度、結婚が決まりましてぇ……」
「え"ぇ"え"? なに? もう一回言って?」

あえて。
そう、あえて、私は聞き返した。
田辺サンは、ビクビクと震えている。

あなたはヘビに怯える子うさぎちゃんですか?


「その……結婚が……決まりまして……」
「きーこーえーなあーい」
「すみません! 結婚するので、来月末で退職させていただきます! では!」

田辺さんは、そう言い残して去っていった。恐怖の涙を流しながら。
私は奥歯をギリギリと噛みしめる。

またかよ。
何回目だよこのくだり。もう「結婚」とか「寿退職」とかそういうのいいから。ほんと聞き飽きたから。もうお腹いっぱいだから。「オメデトー」すらも出てこないから。

どーうして私が結婚できなくて、あんなちょっとボケたような、どっか間の抜けたような女ばっかりが次々結婚していくのよ!
解せないわ。
同期も後輩も、女どもは24歳超えたあたりからどんどん結婚していって、新しい子が次から次へと入ってきて、今や私、立派な「オツボネサン」よ。
デリカシーの無いジジイに「キミはまだ結婚しないのか? ん? あぁ、出来ないのか。がはははははははは」とか言われる私の気持ち、わかる? ねぇ、わかる?

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