結構な腕前で!
第十三章
 次の日、いつものように山道を駆け上がって萌実が部室につくと、廊下を土門が雑巾がけしていた。
 茶室の廊下など、そう広いものではない。
 図体のでかい土門が屈み込んでいると、ねずみ一匹通れない感じだ。

「な、何やってるんですか」

 あまりの威圧感に、萌実は一歩引きながら声をかけた。
 すると、土門はぱっと振り返り、ささっと脇に避ける。
 避けるといっても廊下は狭いし、土門はでかいし、で、あまり意味はないのだが。

「これは、失礼いたした。通れませんな」

 自分でも避けただけでは通れないと気付いたのか、土門は持っていた雑巾をバケツに放り込むと、それを持って外に出た。

「雑巾がけは、新入部員の仕事でござる」

 バケツを示して言う。
 え、と萌実は部室と土門を見比べた。

「いやあの、新入部員……て」

 自分のことだろうか、と思ったが、土門はにかりと笑うと、がばっと頭を下げた。

「北条部長に許しを貰い、本日より茶道部に入ることになり申した。よろしゅうお頼み申す」

「ええっそうなんですか! いや、でも確か、土門くんは同級生ですよね? 一年坊主という意味では同じだし」

「いやいや、例え同級であっても、茶道部では先輩じゃ。わしは茶道のことはさっぱりわからん。教えを乞う立場であるのはわしのほうじゃ。まだ茶道では役に立たないであろうから、これぐらいはさせてくだされ」

 茶道で役に立たない、というのはよくわからないし、しかもこの茶道部に関して言えば、茶道で使えなくても多分問題ない。
 が、まぁ土門が自主的にする、というのであれば、無理に制することもあるまい。

 それにしても、いつの時代の人なのだろう、と思いつつ、萌実は、ありがとうございます、と言って部室に入った。
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