結構な腕前で!
第十四章
「昨日はすみませんでした」

 萌実が部室に入るなり、せとかがぺこりと頭を下げた。

「え? ああ、いえ。こちらこそ、サポートできなくてすみません」

 萌実もぺこりと頭を下げる。
 そしてちらりと部室内を見た。

 見たところ、まだ他の部員は来ていない。
 廊下はぴかぴかだったので、土門はすでに初めの掃除を終えたのか。

「橘先輩がまだ来てないとは、珍しいですね」

 萌実が言うと、せとかが嫌そうな顔で息をついた。

「何か、あそこ揉めてるみたいでねぇ」

 手に持った柄杓で、こん、と釜の縁を叩く。

「はるかは土門の練習を見に行ってるんですよ」

「あ、何か昨日、試合が見たいって言ってました」

「いえ、試合はまだ先です。ただの練習を見に行ってんですよ」

「えーと。つまり、試合でもないのに、はるか先輩は柔道部に行ってるってことですか」

「そういうことです」

 相変わらず眉間に皺を刻んで、せとかが言う。

「全く、本来の部活をさぼって何をしてるんだか。はるかといいせとみといい、責任感がなさすぎます」

 苛々と言うせとかの傍に、もわんと煙が湧く。
 が、そんな間の悪い魔は、一瞬にしてせとかの柄杓にすこんと蹴散らされた。

「ただでさえ道場がいっぱいで漏れてきているというのに。今日という今日は、せとみを道場にぶち込みます」

 すここここん、と立て続けに湧き出る煙に柄杓を振るうせとかに、萌実は少し引いた。
 明らかに機嫌が悪い。

「あ、あの。といっても、そのせとみ先輩は、今日もいないのでは……」

「今はるみが確保しに行ってます」

「捕まりますかねぇ」

「捕まるでしょう」

 何故か自信ありげに言う。
 それを裏付けるように、がらがら、と部室の戸が開いた。
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