結構な腕前で!
第二十五章
 萌実が華道部に(仮)入部してから三週間も経っただろうか。
 部室に向かおうとしていたせとかの背後に、かつん! とやけに威圧感のある靴音が響いた。

「茶道部長。ちょっとよろしいかしら」

「よくないです。ごきげんよう」

 後ろを振り返ることなく、せとかは脱兎の如く駆け出した。
 すぐに威圧感のある靴音が、かかかかっと鳴り響きながら追いかけてくる。

「お待ち! 何ですの、その失礼な態度は! 全く部長がこんなだから、配下もああなんですのね!」

「え、南野さんがどうかしたんですか?」

 さりげなく一歩横に避けながら、せとかが急ブレーキで立ち止まり、振り向いた。
 結構なスピードで走っていたので、追いかけていた由梨花はいきなり止まったせとかを追い越し、走り去ってしまう。

 が、残念ながら、これしきで諦める由梨花ではない。
 砂煙を上げて方向転換すると、さっきよりも速いスピードでせとかに迫る。

「聞きたいなら、それなりの態度を示しなさい!」

「だから止まったじゃないですか」

「わたくしやり過ごすために、横に逸れたのでしょう!」

「わかっているなら、それ以上近付かないでくださいよ」

 言いながらも、すちゃ、とせとかはマスクを装着する。
 そして、ぴ、と腕を突き出した。

「で、南野さんが何ですって?」

 突き出された腕は、それ以上近付くな、という意味である。
 当然ながら、その腕は、ばしんと由梨花に払われた。

「それが人にものを聞く態度ですの? 全くさっきも言いましたけど、人と話をする態度ってものを改めて欲しいものですわね!」

「全くもって同感です」

「……あなたという人は、本当にっ……」

 苛々と由梨花が拳を握りしめ、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
 気持ちを落ち着かせるように、ふん! と一度盛大に鼻を鳴らすと、由梨花はばさ、と髪を後ろに掻き上げた。
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