結構な腕前で!
第三章
 今日も茶道部の部室には、しゅんしゅんというお湯の沸く音だけが響いている。
 癒されるわ。
 こういう雰囲気に癒されるっていうのは日本人だからなのか。

「どうぞ」

 きっちりと正座したせとかが、茶碗を差し出す。

「せとか先輩。そういえば、まだ私、作法を習ってませんが」

「あ、そうでしたっけね」

 いつもの如く、ぼーっとした感じで、せとかが萌実を見る。
 そして、空(から)の茶碗を手に取った。

「飲むときは簡単ですよ。こう受けるでしょ、で、この模様を目印に……」

 説明しながら、手の平に乗せた茶碗を回す。
 ああ、やっぱり綺麗な顔だ。
 手も綺麗。
 着物も似合ってる、と茶碗そっちのけで見惚れていると、せとかが、とん、と茶碗を置いた。

「結構なお点前で」

 そう言って、ぺこりと頭を下げる。

「えっと、それってよく聞きますけど、やっぱり言うもんなんですか?」

「まぁ決まり文句ですねぇ」

 のんびりと言っていたせとかが、ちらりと畳の一点を見た。
 その途端、そこから小さな煙の塊が飛び出してくる。

「うちの場合は、お点前よりも腕前のほうが重要ですけどね」

 口調を変えることなく言いつつ、せとかは慣れた手つきで柄杓を取ると、それですぱーんと飛びかかって来た煙を叩き落とした。
 こういうものを前にしたときだけ、顔が引き締まるなぁ、と思いながら、萌実はとりあえず、飲み干した茶碗を煙の上に伏せて、それを閉じ込めた。
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