結構な腕前で!
第二十七章
 日曜日。
 萌実は待ち合わせの時間に、言われた通り駅についた。

「萌実さん。こっちこっち」

 はるみに呼ばれ、そちらに行くと、せとみの姿もある。
 折角の私服を拝めるチャンスだというのに、せとかの姿はない。

---まぁ真行寺家に行くんだから、当然か---

 それに何となく、あまりせとかのセンスに期待してはいけないような気もする。
 あのぼーっとした感じから、ファッションなど無頓着なイメージだ。

---いや、私服は思いっきり和服なんじゃないかな。それはそれで見てみたいけど---

 いやいや、和服であれば部活と一緒じゃん、とかいろいろ考えながら、萌実はちらりとせとみを見た。
 ジーンズにシャツといった、ごく普通の格好だ。

「由梨花のお家に行くんだから、ジーンズはよしなさいって言ったのに」

 はるみが不満そうにせとみに言う。

「たかが同級生の家に行くだけだろ。変に正装して誤解されても困る」

「確かに。由梨花の性格から、大いにあり得るわ」

 あの由梨花と仲がいいらしいはるみが、真行寺家にお邪魔させて貰えるよう話をしたのだ。
 『せとみが興味があるって』と言うと、狂喜した由梨花は二つ返事で快諾したという。

 はるみは別に嘘はついていない。
 確かに興味はあるのだ。
 ただそれが、由梨花個人ではない、というだけ。

「うーんと、どうやら結構駅から遠いみたいなのよね。由梨花が迎えに来てくれるって言ってたんだけど」

 携帯片手に、はるみがきょろきょろと辺りを見回したとき、すーっと音もなく、黒いリムジンが横付けされた。
 さっと運転席から黒服の男が降り、後部座席に回ってドアを開ける。
 かつ、と花魁のように高い高下駄が地に降り立ち、続いて艶やかな振袖が、ばっさと姿を現した。
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