結構な腕前で!
「あ、あ~……。そ、そうですかねぇ~」

 あははは~っと笑って誤魔化すも、萌実の背を妙な汗がだらだら流れる。
 まさかせとかに抱き寄せられていたから、その動揺がモロに出た、とか言えない。

---でも何にしても、いい方向に影響して良かった。根底に、せとか先輩の役に立ちたいっていう気持ちがあったからだね。ラブパワーはやっぱり何にも勝るんだね~---

 しみじみ思う。
 以前に動揺しすぎて集中できず、せとかに負担をかけてしまったことがある。
 そんな風になっていたら、せとかの身が危険だったかもしれない。

「それに、最後は片手で僕をヘリに引っ張り上げましたしね」

 う、と萌実が固まった。
 それは本当の『腕力』であって、目に見えない力ではない。
 もっとも目に見えないラブパワーがあってこその、あの腕力なのだが。

「えっ! 何それ、凄いじゃない」

 はるみが驚いて、萌実の腕を見る。
 筋肉を確かめないで欲しい。

「いやぁ、南野さんがこんなに頼もしいとは思いませんでした。あのままだと、悪くしたら穴に落ちてましたし」

 しみじみと言うせとかに、ふと萌実は傷だらけの己の腕を見た。
 傷は腕だけではなく、顔や足も、いたるところにある。
 微妙な傷なので消毒液だけだが、せとかも同じく全身傷だらけだ。

「落ちないように、びーちゃんが一生懸命咥えてくれたってことなんですかね」

 全身の傷は、びーちゃんの噛み傷だ。
 てっきり襲われていると思っていたが、あれは萌実たちが落ちないようにしてくれていたのだろう。
 ……多分。

「そうですね。結界を張った後は、その上をびーちゃんが覆ってましたけど、僕らがそこに突っ込む直前に、一気に育ちましたし」

「あら。じゃあびーちゃんに噛まれても、人は大丈夫ってことですわねぇ」

 何故かちょっと残念そうに、由梨花が言う。

「あなたたち、びーちゃんの海を泳いでましたものねぇ」

「でもそれは、もしかしたらせとかに懐いてるからかもだぜ。せとか、何かびーちゃん可愛がってたし」

「じゃあわたくしも大丈夫ですわね。わたくしが大丈夫ということは、せとみ様も大丈夫。びーちゃん、わたくしの言うことは聞きますから」

 はたして植物が人の言うことを聞くのか。
 元々この世のものとも怪しい植物なだけに、絶対ないとも言えないが。
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