結構な腕前で!
第一章
「……いつまで経っても着かないんですけどぉ~」

 夕日に照らされる山道を、萌実はへろへろになりながら上がっていた。
 恐れていた通り、一歩山に入れば、あとはけもの道だ。

 地図もなしに踏み込んでいいものだろうか、と思ったが、幸い辻々には木の矢印で『茶道部』と書いてあった。
 なので迷っているはずはない。

 が、迷っていないのに着かない、ということは、恐ろしく遠い、ということなのではないか。
 心が折れそうになったとき、いきなり傍の木が揺れた。

「!!」

 萌実が身体を強張らせる。
 夕暮れの山道だ。
 明らかに何かが動かしたものにビビらないほうがおかしい。

 不審者か、まさか熊……。
 青くなって立ち尽くしていると、再びがさがさっと枝が揺れ、何かがざっと飛び降りて来た。

「……い……」

「何やってんの、こんなところで」

 萌実の口から悲鳴が迸る前に、飛び降りて来たモノが口を開いた。
 制服姿の青年。
 その顔に、萌実は目を見開いた。

「ほ、北条先輩っ!!」

 憧れの先輩である。
 何という劇的な再会。
 ……と思っているのは萌実だけで、目の前の先輩は、え? という目でしげしげと萌実を見た。

「ん? ごめん、知り合いだっけ?」

 言いながら、笑顔を近付ける。
 憧れの先輩に至近距離まで距離を詰められ、萌実は鼻血を噴きそうになりながら固まった。
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